中編:〜国際人の育成、そして日本が世界で勝つために筑波大学院で学んだこと〜
「(研究で)ストライカーに必要な要素の答えが3つ出てきました」
ーー以前、筑波大学院に通われていたと思うのですが、国際人の育成にも関係あるのでしょうか?
松原:それも世界に勝つために入学しました。ブンデスリーガの解説者として、以前オリバーカーンさん(※)の取材をしたんですよ。そのときに彼がオーストリアの大学に行って、MBAを取ったことを知ったんです。彼は最近バイエルンのCEOになりましたよね。
2002年のW杯でMVPになった選手がそんなに勉強してるんですよ。「2050年までにW杯自国開催・自国優勝」というJFAの目標がある中で、このままではいけない、と思ったわけです。
僕はオリンピックには出たけど、そんなの昔の話であって、前に進むことが大事だと思います。学生時代は勉強してきてないけど、(大学院で)修士取って、今は博士号を取るということを目標に勉強してるんですよ。自分に力をつけて世界で通用する人間になっていきたいと。
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(※)元ドイツ代表のプロサッカー選手(GK)。2002年の日韓W杯でGKとして初のMVPを獲得。ドイツサッカー界でも最も多くのタイトルを獲得した選手の一人であり、同時にドイツ社会で発言力を持つサッカー選手の一人である。現在はバイエルン・ミュンヘンのCEOとして活躍中。
ーースポーツマネジメントを専攻しているんですか?
松原:はい、そうです。スポーツプロモーション、スポーツマネジメントもそうですが、指導やプレーの面についても、経験を言葉に変えていく作業をしています。世界に勝つためにはストライカーやキーパーが必要ということを経験で語るのではなくて、ちゃんと科学的に証明して、それをサッカー界に落とし込んでいますね。その研究が、育成とかトップチームでも波及していって欲しいなという気持ちで取り組んでいます。
ーー日本はストライカー不足とずっと言われていますもんね。ストライカーの研究について詳しく教えてください
松原:3、4年前ぐらいですけど、当時は世界5大リーグで、得点ランクのトップの40%近くが南米の選手だったんですよ。
なんで南米の人間がこんなに多いの?って思って。2014年のブラジルW杯のときには、日本は全試合で2得点。全然点取れなくて、良いメンバーだったけどグループリーグで負けましたよね。
なんでこんなに日本は点取れなくて、南米にはストライカーが多いのっていう疑問から、僕自身ウルグアイに居たことや、僕の親戚のおじいちゃんがアルゼンチンに居たこともあって、南米にスポットを当てて研究したんです。
そうすると、日本がW杯で勝ち上がっていくためにはストライカーが必要だということがわかり、さらには、ストライカーに重要な要素の答えが3つ出ました。
ーーぜひ聞きたいです。
松原:研究論文は、カバーニ、トレゼゲ、高原直泰さん、タバレス監督(ウルグアイ代表)、マリオ・レボーショ(ウルグアイ代表コーチ)、グスタボ・ポジェ監督へのインタビューをもとに作成しました。
ストライカーに重要な要素の一つ目は「性格」ですね。
一流ストライカーは、性格が関係してるんですよ。やっぱりエゴイストで、もう突き抜けちゃってる性格っていうかね。性格がストライカーの気質じゃない人がやっても駄目なんですよ。
ーー「俺が俺が」みたいな感じですかね。
松原:そうそう、「俺がゴールを決めて主役になってチームを勝たせてやる」って感じ。普段温厚でも、ピッチへ一歩、ラインを踏み越えたらガラッと性格が変わったりとか、もともと普段からエゴイストだったり。
2つ目は、「コンディショニング」。
常にチームを勝利へと導くゴールを期待されている彼らは、コンディショニングをすごく意識しているんです。年間の出場試合数についても、一番多い選手で70試合ぐらい出るんですよ。それに比べて日本の選手は40試合くらいの選手が多い。全然違いますよね。
ーー南米っていうとコンディショニングを気にしないイメージがあるんですけど、そんなことないんですね。
松原:真逆だね。メッシもスアレスもカバーニもみんなヨーロッパでプレーしているので、そうするとチャンピオンズリーグがミッドウィークにあって、週末にリーグ戦がある。チャンピオンズリーグの試合でロシアでプレーしていた氷点下の気温から、スペインの15℃、20℃ぐらいのところへ移動してすぐプレーするとかが普通なんです。しかもクラシコがあったり、代表チームのW杯予選があったり、いっぱい試合をやってるんですよ。彼らはコンディショニングをすごい意識していて、身体のコンディショニングとメンタルのコンディショニングの両方を意識しています。メンタルの方だったら1日24時間の中で、誰と一緒にいるか、ストレスがかからない人といることが大事というところまで考えています。
なかなかないでしょう?どうやったら点取れますかって聞いたら、いやコンディショニングが大事だよっていうね。シュートのこと言うのかなと思ったらね(笑)。ストライカーは繊細なんです。
ーー確かに今まで聞いたことないですね(笑)。3つ目はなんでしょうか?
松原:最後は「理解力」です。
ーー戦術の理解ってことでしょうか?
松原:そうそう。でも戦術っていうか、全部だね。まず、監督の言うことを理解すること。
監督がどう考えてどういうサッカーをしたいのか、どういう戦術を取るから自分に何を期待してるのか。今いくつか言いましたけど実はそれぞれ違うんですよ。
あとはチームメイトを理解すること。一人ひとりタイプが全部それぞれ違うんですよ。同じドリブルするタイプでも、この選手だったらこのタイミングで(パスが)出てくるなとか、それぞれの特徴もプレーもそうだし性格もフィジカル的な部分も全て理解することが大事ですね。
フォーメーションが4-4-2なのか4-2-3-1でも違う。例えば、「トップのところにボールがあったときはどうやって点取りますか」って聞くとするでしょう。そうするとトレゼゲ(元フランス代表FW)みたいな一流選手は、「それは3-4-3なのか、4-3-3なのか、どれなんだ」と返すんですよ。だから、そういう理解力はすごく大事ですね。
でも、今言った「性格」「コンディショニング」「理解力」っていうことは、ストライカーになるために日本の育成環境では教えられてきてないわけですよ。
でも、最近は日本でも世界で活躍でいるストライカーを育成しようということで、ストライカープロジェクトっていうのが立ち上がりました。この研究結果をJFAでも発表させていただきましたが、少しでも(日本サッカーの課題の)助けになることができたらいいなと思っています。
それこそ、(当時、協会の技術委員長だった)西野朗さんとか関塚隆さんとか、おそらく次の五輪サッカー代表の監督になるであろう影山さんとか、フィジカルコンディショニング部長の菅野さん、ガンバ大阪の松波監督など、僕が研究した内容をお伝えしています。
ーー海外で当たり前にやってるようなことを、日本で当たり前にしていきたいというところなんですね。
松原:そうですね、一番は2050年に開催されるW杯で日本が優勝するために、僕は国際人の育成をやりたいんですよ。
国際の比較ってなると、日本人は主に日本のことしか知らない。でもそれはしょうがないじゃないですか。でもオリバーカーンさんは、あんなに一流の選手でありながら、物凄く勉強して、それが新たなサッカー文化作りに繋がってるわけですよね。何かを達成したらそれで終わりではなく、そこからまた新たなスタートを切る。ずっと続くんですよ。だから僕も、自分の感覚で物を言うんじゃなくて、ちゃんと勉強してエビデンスを持って、論文にして現場で伝えていきたいです。
ーー松原さんの視点で、海外に行ってから変化、成長した現役選手って誰でしょうか?
松原:吉田麻也選手とか、今回のオリンピックに出場していた選手なんてわかりやすく(変化が)出てるんじゃないですか。
逆に質問なのですが、吉田麻也のどういうところが成長していると思いますか?
ーー今回(五輪で)思ったのはメンタルですね。自分から無観客を有観客にしてほしいと発言したこともそうですし、ずっとメダリストになって帰りたいと言い続けて、最終的には後輩から「麻也さんにメダルを取らせて帰りたい」って言われるぐらいまでキャプテンシーを持ったという部分は海外でついたのかなと思いますね。
松原:うんうん、そうですよね。社会におけるサッカー選手の立ち位置、サッカー選手はプレーするだけじゃないっていう価値を出していましたよね。
だからコロナ禍の中で、世界中の人々がたくさん苦しんでるけど、そこでもあえて試合後にインタビューを行ったときに、丁寧に言葉を選びながら有観客について話しましたよね。素晴らしかったあれなんですよ。
サッカーの上手い下手、技術戦術と、フィジカルとか、それはもちろんサッカーの魅力として必要な要素ですよ。そうじゃないと人は見ないし、魅力もないとは思います。でも、サッカーの本質である「メンタル」「人間性」を、吉田麻也選手にしてもそうだし、酒井宏樹選手も遠藤航選手も学んできている。その姿を見て、久保建英選手とか鈴木彩艶選手も、トレーニングパートナーだったジェフの桜川選手もそうだし、みんな学んでるんです。試合後のインタビューもとても大切なんです。
ーーなるほど。世界を経験している選手から学んでいくと。
松原:はい。まさにそういうことなんですよ。僕がいたウルグアイがどうして強くなってるかというと、フォルランっていう選手がいましたけど、スアレス選手とカバーニ選手はフォルラン選手を見て育っているですよ。だから、(違う国の)言葉を覚えないといけないとか、立ち振る舞いもちゃんとしないといけないとか、そういうのがわかってくる。ウルグアイ代表のタバレス監督が教えてくれました。
サッカーを通じて人間的にも成長していくっていう部分、それはプレー以上に大きいと思いますね。
ーー日本代表もほとんどが海外組ですよね。海外組の先輩の姿を見て、人間的な面、プレー面で成長していけるのは大きいことですよね。
松原:でもね、あえて厳しいことを言うと、チャンピオンズリーグでレギュラーとして出てる選手はいないんですよ。日本がブラジルとかアルゼンチン、ベルギーに勝って、W杯で優勝していこうと思うんだったら、常に本気の勝負をしてるところで毎日のトレーニングからやれる環境にいると、もうワンランク上にいけますよね。
もっと言うと、指導者もやっぱりヨーロッパのトップレベルで戦えるように、早くS級ライセンスをヨーロッパで使えるようにしなきゃいけない。語学を学ぶこともそうです。マネジメントする側も国際的な人材に成長していかないといけないと思います。
<後編へ続く>
トップス:ボーラー / Tシャツ / BLACK LABEL – CLASSIC SHIRT BLACK
ボトムス:ビースラッシュ / ショーツ / 4WAY STRETCH BLACK
ソックス:ビースラッシュ / ソックス / ANKL SOCKS / ブラック
シューズ:ボーラー / スニーカー / CLEAN SNEAKER / BLK
キャップ:ボーラー / キャップ / CLASSIC COTTON CAP BLACK
〜次回配信予定日〜
9月18日(土)12:00 後編:〜海外を身近にする道筋を作る先駆者になるために〜
「原稿用紙数百ページの論文を○年掛けて完成させている?!」「将来的には日本代表監督が目標?!」
など、日本サッカーが強くなるための研究について、これからの目標やビジョンなどのお話が盛り沢山!
ぜひチェックしてみてください!
前編:〜引退後、指導者としてスタートした理由〜「(子供たちに)どんどん可能性を広げてほしいから国際人の育成をしています」
後編:〜海外を身近にする道筋を作る先駆者になるために〜「ヨーロッパで監督をやってみたいし、日本が2050年のW杯で優勝するためにチャレンジしていきたい」