後編:〜ブラジルW杯が終わって著書を出した理由、そして日本サッカー界への想い〜
「ザックさんが日本の為にしてくれたこと、魂を込めて活動してきた4年間が、W杯で負けた事で、よく理解されていないんじゃないかと思っていました。」
ーー中編のあらすじ
ザッケローニジャパンの通訳に就任した矢野氏は、日本代表スタッフとして4年間活動することになる。代表チームの良い時期も苦い時期も経験してきた中で、ザッケローニ監督の凄さを間近で経験。そして、通訳としてW杯に帯同したことは「サッカーを経験していて、サッカーに携わった人間からしたら感慨深いというかね、最高の舞台ですよ。」と語った。
ブラジルW杯の舞台で、思ったような結果がチームとして出なかったことについて悔しさを感じた一方、アジアカップや東アジア選手権で優勝したことや、アルゼンチン、フランス、ベルギーなどに勝利したことなど、数々の良い思い出が今も残っているとのこと。
W杯が終わってから2年ほどは日本で著書を出したりインタビューを受けたりと忙しい日々を過ごし、2年後の2016年にイタリアに戻ることに。著書を出した理由は、ザッケローニ監督、そして日本代表を想ってのことだった。
ーーマネジメントの会社の仕事も、相当やっていたんですか?
矢野大輔氏(以下、矢野):そうですね。あとは、本を出して、取材受けてというサイクルが続きました。今日のような取材が、W杯が終わってから1年くらい続いた感じでしたね。
ーー引っ張りだこだったんですね。どのくらいのペースで取材があったんですか?
矢野:最初はたくさんありました。取材の頻度が少なくなっても、地方で講演を行ったりする機会は多かったですね。
ーーなるほど、様々な人に経験を伝えていたんですね。その時期に著書も出していますよね。
矢野:そうですね。最初は、僕が本を出したのも、よく理解されてなかったんですよ。「なんで本を出すんだ」みたいな声ももちろんありました。
なぜ本を出そうと思ったのかというと、ザックさんが日本の為にしてくれたこと、魂を込めて活動してきた4年間が、W杯で負けた事で、よく理解されていないんじゃないかと思っていたことが理由です。もちろん結果が全てだからしょうがないけど、中身の部分を説明したいというか、伝えたいと思って本を出したり講演をしたりしていましたね。
だけど、いつまでもザックJAPANの話をしてる訳にはいかないじゃないですか(笑)。1年も経ったら新しく前に進まなきゃいけないし、それでイタリアに帰りました。
ーーなるほど。それでイタリアに帰った時に6部リーグの監督になったんですか?
矢野:イタリアに帰ってすぐの頃ですね。会社員として働きながら、夜の8時から昔プレーしていたようなクラブでコーチをやって、その後監督もやってという感じです。
ーーそういうことだったんですね。それが、日本のメディアでは「矢野大輔氏がイタリアで監督に就任!」みたいな報道になったという事ですか?
矢野:ニュースに出てた記事は、そうです(笑)。
ーー監督業は初めてやったと思うんですけど、実際にやってみてどうでしたか?
矢野:やっぱりイタリア人って言う事を全然聞かないんですよ。だから、そこが1番大変でした。
でも楽しかったですよ。今もコーチやってますからね。コーチ業が本業ではないんですけど、グラウンドに顔出して一緒に運動したり、ボール蹴ったりとか出来るのは、良い気分転換になってますね。
ーー監督をやってる時、ザッケローニ監督の近くで学んだサッカーの事だったりを活かせたりするんですか?
矢野:ザックさんが言っていた事をそのままやれば真似してやればいい訳でもないんですよね。もちろん選手も違うし、選手のレベルなんて全く違うので、その中で試行錯誤しながら教えていました。
ーー矢野さんが思う理想のサッカーっていうのは、どのようなサッカーですか?やはりザックJAPAN時代のサッカーが理想なんですか?
矢野:そうですね。1点取られても2点取る、2点取られても3点取るサッカーが好きです。もしくは、攻めながらバランスを取るサッカーが理想ですね。
ーー僕もそういうサッカーが好きです。現在の矢野さんの本業はなんですか?
矢野:今は広告代理の仕事が本業です。昔から働いている会社は変わっていないんだけど、そのマネジメント事務所の中で、広告代理の業務をしています。
ーーそれは日本とイタリア両方でやってるんですか?
矢野:業務自体はイタリアでやっています。クライアントは日本の方がほとんどですけどね。
ーーこれから矢野さんが目指していく未来や目標をお伺いしてもよろしいでしょうか。
矢野:それはもう、毎日自問自答してますよ。どうしたらいいですかね(笑)。逆にお伺いしたいんですけど。(笑)
ーーいやいや!その逆質問は困っちゃいますね(笑)。これからもイタリアに住み続ける予定なんですか?
矢野:それもまだわからないですね。子供がイタリアで教育を受けてるので、もう少しはイタリアにいようと思いますけど、現時点で決めている予想図はあんまりないですね。
ーーずっとサッカーに携わっていく気持ちはあるのでしょうか?
矢野:ずっとサッカーに携わっていくでしょうね。もう41歳、知り合い大体みんなサッカー関係、逆に他の分野に行って生活する自信がないです(笑)。
ーー確かにそうですよね(笑)。もう一度通訳をやりたい気持ちはないんですか?
矢野:あ、もうそれはないですね。ザックさんがやられる場合は、別ですけどね。
ーーそれは、もう燃え尽きた感じですか?
矢野:それはね、大変だから(笑)。
ーー私なんかには想像できないほど大変ですよね。今後の目標はありますか?
矢野:好きな人と楽しく生きていくってことだけですね。もうそれだけです。
ーーそれが1番いい未来ですよね。日本サッカーの未来についてはどう思われますか?
矢野:明るい未来しかないと思います。
ーー海外組も多くなって、だんだんとレベルは上がってるなと感じていますか?
矢野:感じていますし、ずっと代表の動向は追っています。吉田麻也くんがキャプテンだから他人事ではないですよ。ザックジャパン時代と同じくらい当事者意識はありますね(笑)。
僕は日本サッカーの未来についてはよくわからないけれど、もっと多くの人にサッカーに興味を持ってもらいたいという想いはあります。それこそ、ファッションを通してサッカーに興味を持ってもらうというバランススタイルの切り口は素晴らしいと思います。
野球で日本ハムの監督に新庄剛志監督が就任して、全然野球に興味なかった人たちも日本ハム見に行きたいって思うじゃないですか。それと同じことがサッカー界であるとは限りませんが、もっと明るく盛り上がっていけばいいなって思いますね。サッカー界の常識に囚われるんじゃなくて。もっとオープンに、もっと色々な人を巻き込んで「サッカーってこんなに面白いんだよ!」というのを伝えていくべきだと思います。そう言った意味では、ファッションっていう切り口は広いし、色々な人が興味を持てるからとても良いと思います。
ーーありがとうございます。最後の質問になるんですが、矢野さんにとってサッカーとはなんでしょうか。
矢野:また難しい質問だなぁ(笑)。真面目に答えますね。
うーん。僕にとってサッカーとは、友達作りのきっかけですね。
ーーなるほど。友達作りのきっかけというのは具体的にどのようなものでしょうか?
矢野:ほとんどの方とサッカーを通じて仲良くなるからです。サッカーをやったらすぐ仲良くなる。新しく出会って、そこから仲良くなっていくことって大人になったらすごく大変じゃないですか。その垣根を一気に飛び越えられるのはサッカーだと感じています。そういった意味では友達を作る最高のツールとも言えますね。
ーー深いですね。ありがとうございます!
矢野:この答えで大丈夫だったかな(笑)?
ありがとうございました。
<完>
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通訳日記 ザックジャパン1397日の記録