後編:〜地元でお店を出した理由と、いかに地元の方々を巻き込むか考え抜いた中でのお店の在り方〜
「今までの僕の人生の全てをこの店に集約しました。」
ーー中編のあらすじ
ワインの商社に入社し、ソムリエの資格を取るために生活習慣から全てを変え、出社前に2時間勉強の時間を作るように。その結果、ソムリエの資格試験合格だけではなく、サッカーも仕事も全て上手くいくようになったと話す神沼さん。その後、コロナ禍において、自身の仕事が飲食業界に対して貢献できていないと感じ、それが自身の信念とはズレていることで独立を決意。相方である上野海さんと共に、『サッカーもできる』『お金も稼げる』『ちゃんと休める』『楽しくできる』かっこいい飲食業を作ろうと目標を立てた。なぜ地元・横須賀で開業したのか、どんなこだわりを持ってビジネスを展開しているのか、ソムリエくんとしての目標などをお聞きました。後編をご覧ください。
ーー地元・横須賀でお店を開業した理由はなんですか?
神沼拓海氏(以下、神沼):飲食店の総数というのは山ほどあります。その中で、横須賀という僕らが生まれ育った街だからこそ、僕らにも出来ることがあると思いました。
やっぱり地元の繋がりって大事だと思っていて、高校で県外に出たり、就職で離れたりというのが当たり前の中で、だんだん連絡を取らなくなってしまうパターンは多いと思うんですよね。
そういうことに対して、僕らが店を開業することで、みんなで集まれるきっかけになれるかなと思って地元で始めようと決めました。
ーー確かに地元の友人がお店を開いてたら、憩いの場になりそうですよね。
神沼:そうなんです。それが(地元で立ち上げた)きっかけですね。
ーー神沼さんのnoteを拝見させていただいたのですが、地元の方々が開店の準備、工事を手伝いに来てくれていたのは本当ですか?
神沼:そうですね。僕らのお店作りは、今まで僕らの出会ってきた仲間たちに本当に助けてもらいながら完成することができました。このレストアというお店には僕らだけでなくいろいろな人達の想いが詰まっています。今までの僕の人生の全てがこの店に詰まっています。
ーーなるほど、開店までの工事に業者とかはほとんど呼んでないということですか?
神沼:ほとんど呼んでないですね。
お酒や料理の仕入れ業者はちゃんと調べて、理念とか見ていいなと思ったところを直アポしたのですが、店作りに関しては、全部周りに助けてもらいました。
これには僕なりの考えがあったんです。僕たちがやるのはローカルビジネスだったので、めちゃくちゃコミュニティを大事にしたいなと思っていました。そこでコミュニティとか地域経済の本を相当読んだんですよ。
そして学んだことは、いかに地域を巻き込むかが大事ということ。僕ら2人で業者の方々にビジネスとして店作りを依頼するより、地元の方々を巻き込みまくって色んな人に手伝ってもらって店が完成した時点で、もうみんなの店になってるんですよね。
ーー確かに全然違いますよね。お店に対する思い入れが強くなる気がします。
神沼:そうそう。僕らの店って、みんなが友人を連れて来てくれるんですよ。僕は地域の人々をどれだけ内側の人間にさせるかっていうことをめちゃくちゃ大事にしてます。
実際に、これでもかってくらい巻き込めたので、特に広告とかにお金使わなくても人が集まるようになりましたね。
あと、外装とかもDIYでずっとやっている中で、駅前というのもあって色んな人が通って見てくれるんです。「なんかやってるな」という意識をインプットさせられたので、そのDIYをしている姿が気になって来店してくれたお客様もいます。
本当に周りの方々のおかげでお店が出来たなと感じています。
ーー他にお店のこだわりポイントというのはあるんですか?
神沼:やっぱりワインが一番のポイントかなと思いますね。
ーー先日お店に伺わせていただいた際、ワイン1本1本に、そのワインの紹介文が長く書いてあったのが印象的でした。全部神沼さんが書いているんですか?
神沼:そうですね。あれも元々、前の仕事のときに飲んでるやつだったので、僕の知識をお客様に伝わるように書いています。
他にこだわっているのはお店のコンセプトと店名。昔は、僕らの街でワインなんて聞いたこともなかったわけです。「横須賀でワイン」という概念は無くて、飲むとしても都内で飲んでました。「果たして横須賀でワインは浸透するのか」というのがキーポイントだったんですよね。
なので、ワインがもしなかったとしても繁盛するお店を作ろうという思いで「居酒屋兼ワインショップ」という形にしてるんですよ。店の名前も、ワイン感を出すと入りずらかったりすると思って、「家庭料理とワイン」というワードを入れ込み、「家庭料理とワインのお店 レストア」という店名にしましました。
ーー色々と試行錯誤の上で決めてらっしゃったんですね。
神沼:はい。あと、僕らはシェフじゃないので凝った料理を作ることも難しいですよね。でも、家庭料理というワードを入れることでなんでも作って大丈夫だと思ったんです。
そして、地元でお世話になったお母さんたちを巻き込もうと思って、そのお母さん達の十八番料理をメニューに入れたりしています。
ーーえ!ということは、あのめちゃくちゃ美味しかった唐揚げも誰かのお母さんの味なんですか?
神沼:そうです。あれは僕らの親友のお母さんの得意料理です。
ーーそうだったんですね。あの唐揚げはバランススタイルのモデルチームにも大好評でした。
神沼:あの唐揚げは、メニュー決めで悩んでいた時に、僕らの地元の親友が、「まじでうちの母ちゃんの唐揚げは世界一美味い」って昔からよく言っていたのを思い出したことから始まったんですよ。
そういえばあいつあんなこと言ってたなという感じになって、その親友のお母さんとも仲が良かったので「ちょっと唐揚げ食べさせてくれない?」みたいな。それで実際に作ってもらったら本当に美味しかったんです。そこで、「この唐揚げを店のメニューでやっていい?」って聞いたら、親友のお母さんも了承してくれて、あの唐揚げがお店に出ました。
「メニュー名に“渡辺家”って入れるからさ」と言って、『渡辺家の唐揚げ』というメニュー名になりましたね(笑)。
ーーお店に導入するときは、レシピを教えてもらって再現するという形なんですか?
神沼:そうです。あとは、実際に食べさせてもらって。味の記憶が残ってるので、思い出しながら味を調整することを繰り返すという感じです。
基本全部「TTP」ですね。徹底的にパクってるの略です(笑)。
(※TTP:現在、中尾マネジメント研究所で代表を務める中尾隆一郎氏がリクルートでスーモカウンターの責任者をしていた時期に、仲間と一緒に試行錯誤しながら事業を成長させていく際に考えついた言葉であり、実践していた方法論)
ーーその部分も含めてみんなを巻き込める良い発想ですよね。
神沼:その通りです。
ーーOPENしてから今2、3ヶ月くらいだと思うんですけど、お店は楽しいですか?
神沼:めちゃくちゃ楽しいです。
みんなが来てくれて、ハッピーな気持ちになって帰って行く姿を見ることができて、「これが俺の今の仕事なのか」と毎日思えることが幸せです。
「今日これだけ売り上げがあって、これが俺の飯になってるんだ」と毎日実感してるような感じですね。
今までって、自分で稼いだお金がダイレクトに入ってくるわけじゃないじゃないですか?
筌口さんもそうだと思うんですけど、その感覚は会社で働いていると感じにくい部分だと思うんですよ。
でも今は、自分で働いたお金がそのまま自分の血となり肉となり、という感覚を感じることが出来る。そうなると、お客さんがお店に来てくれると本当に嬉しいわけですよ。
心から「ありがとう」と思うんですよね。その気持ちは絶対(お客様にも)伝わっているはずだし、それが、めちゃくちゃ繁盛している理由なんじゃないかなと思ってます。
ーー会社員から独立してチャレンジしている神沼さんがすごいなと思いますね。
神沼:いえいえ、そんなことないです。でも、今めちゃくちゃ楽しいです。
ーーnoteでプレプレプレOPENとか書いてましたもんね。笑
神沼:そうです(笑)。(オープン予定だった)7月は緊急事態宣言が出ていたので、1週間くらいプレオープンして、そのあとは2ヶ月間くらい閉めていました。
あとは、週末だけ仲の良い人限定でオープンして、シャッターを閉めながら営業していましたね。
本当に新規のお客さんが来店してくれるようになったのは10月1日からなんですけど、まだ1ヶ月しか経っていないのに4、5回来てくれる人とかも結構いるので、本当に嬉しいです。
(※取材は11月初旬に行われました)
ーースタートダッシュは絶好調ということですね。
神沼:そうですね。それでも週2日は休んでますからね。週2日休みの飲食店ってあんまりないじゃないですか。それでも、想定していた売上を全然超えているので、そういった面でも嬉しいです。
ーー2人で切り盛りしている中での週2日休みということは、お店自体を閉めている日が週2日あるということですか?
神沼:はい。今はありがたいことにそういう形で出来ていますね。
ーー飲食店として中々ないですよね。それでもう売上も達成しているということなんですね。神沼さんが考える新しい飲食店のあり方がだんだん形になってきていますね。
神沼:そうですね。あとは、お店の中でどれだけ売上作れるかは、飲食の場合もう決まっているので、走らせ続けるしかないです。
僕らも、色々とカッコつけてやってみたものの、結局ずっと走ってるんですよね。
なので、今の飲食店が持続可能なビジネスか、と言われたらやはり難しいなと考えていて、そのためにワインを入れたんですよ。ワインはEC販売の免許も取ったので、お店以外のところでも利益を取れる。お店とは別の利益が、例えば月何十万とかできたら、じゃあその分お店を何日閉めても大丈夫というのが計算できたりもしますよね。
ーーお店以外での収益も考えているんですね。すごいです。
神沼:お店の外でも利益を取れるビジネスにチャレンジしていくというのも踏まえて会社を立ち上げたので、飲食で売上をどんどん上げていくというよりは、お店はみんなが集まって楽しくなれる場所を提供してるという感覚です。マネタイズするのは他のところでというのが一番の理想ですね。
そんなカッコイイことを言っていても、今はとにかくお金を稼ぐしかないことはわかっています。僕らは、「最初の1年は血眼になってやれること全てやろうよ」と言ってたので、覚悟は出来てます。
ーーお話を聞いていく内に心から応援したい気持ちが大きくなっていきます。
神沼:ありがとうございます。お店も全力でやりつつ、徐々に他のことをやっていきたいという中で、今回バランススタイルさんと様々なことができるお話をいただけたので、めちゃくちゃ嬉しいんですよ。
ーーサッカーとソムリエって相当インパクトありますよね。
神沼:そうですね。サッカーとソムリエと聞いても想像しにくいのはわかっているので、僕の活動を広めていきたいと思いますし、社会人サッカーを続けているというところも広めていきたいです。
ーーサッカー、ビジネスについての目標や、やりたいことがあれば教えてください。
神沼:サッカー×仕事×プライベートで常に120%というのが僕らの裏スローガンでもあるんですけど、僕は人生のスローガンにしています。
お店は、目の前にいる人を幸せにすると言うのを常に心の中に留めて日々営業をしています。お客さんが少しでもいいからテンションが上がるとか、気持ちよくなって帰ってくれるとかを見ることができたら嬉しいです。売上だけに目が眩むのではなくて、その気持ちを忘れないと言うことだけを日々自分に聞かせることが大事じゃないかなとは思っています。
ーーありがとうございます。ソムリエくんとしての目標はありますか?
神沼:サッカー×ソムリエの視点で言うと、もっとワインのことを広めていきたいです。それは、入り口はサッカーでも洋服でもなんでもいいと思うのですが、ワインの世界は面白いんだよ
という部分を伝えていきたいです。
それこそ、バランススタイルさんを通じて面白さを伝えられたら最高ですよね。ワインって何にでも繋げようと思えば繋げられるので、是非うまく切り出してもらって、ワインは実は面白いんだよとかかっこいいんだよというところを伝えてくれたら嬉しいなと思います。
ーーサッカーを切り口にワインを伝えるのはまさにバランススタイルでやるべきことだと思うので、是非ワインの魅力を広めさせてください。
神沼:ありがとうございます。サッカー選手はワイン好きが多いので、絶対その切り口は良いと思います。
よろしくお願いします。
ーー最後の質問です。神沼さんにとってサッカーとは?
神沼:生きがいですかね。サッカーのためにこれまでたくさんのことを犠牲にしてきました。でも、それだけサッカーに懸ける価値があると思っているし、なによりサッカーが本当に僕のすべてだし、今の僕を作ってくれたのは間違いなくサッカーです。
人に対する表現みたいになりますけど、サッカーには本当に感謝しています。今後もどんな形であれサッカーには関わっていきたいですし、今後もサッカーに魅了され続ける人生なんだろうなと思っています。
<完>
家庭料理とワインのお店 レストア
ーーよこすかの魅力をぼくらが東京で学んだワインと飲食を通して伝えていきたい。
「ワインをもっと身近に、食をもっと豊かにすること。」「全力で楽しんでもらうこと。」。
ワインは料理の良さを引き出したり、お互いの足りないところを助け合ったり、1+1=∞の可能性を秘めている唯一のお酒だと思っています。
ワインってまるで人間のようだなと。
自分の足りないところは大切な人に助けてもらえばよい。逆にたいせつな人の足りないところは、自分が補ってあげればよい。
そんなワインの魅力をお伝えしていければと思っております。
“日本一サッカーが上手いソムリエ”
“ソムリエくん”
神沼拓海
【店舗情報】
「家庭料理とワインのお店 レストア」
住所:神奈川県横須賀市久里浜1-4-3
電話番号:080-2011-4400
公式サイト:https://restorewine.thebase.in/
【公式SNS】
Instagram:https://www.instagram.com/restore_kurihama
【ソムリエくん】
note:https://note.com/manka0221
前編:〜大学サッカーまでの道のりと、ワイン商社に入社した理由〜「ワインは(周りの)誰も関わっていないじゃんと思い、ワイン商社に進む選択をしました。」